Mauvais Sang(汚れた血)



汚れた血 86

監督 脚本 レオス・カラックス

出演 ドニ・ラヴァン ジュリエット・ビノシェ ジュリー・デルピー



白鳥の羽ばたき、一人の男が列車で殺されるシーン、タイトルロール。

愛のないセックスで伝染する病原菌。STBO

アメリカ女からの借金の返済のため製薬会社のSTBOワクチンを奪う計画をたてるマルク。

手先の器用な

死んだ男の息子アレックスを一味に迎える。

マルク、マルクの若い情婦アンナと医者くずれのハンス、アレックスの4人がアジトのメンバー。

アレックスのアンナへの報われない求愛とワクチン奪取、

そしてアレックスが腹を撃ち抜かれて死ぬまでの話。




ビノシェがかわいい。

くそかわいい。

印象的なのは

前髪に唇から息を吹きかける仕草。

この仕草をまねするのが公開時の女の子の間で流行ったに違いない。

飛行機からパラシュートで落ちるシーン。

マルクの発作に流す大粒の涙。

後に花開く役者としての胆力、感性の片鱗も見せている。

デルピーの少女時代の輝きもまた半端でない。

まるで妖精。

妖精がタバコをくわえ、コンドームを開け、

バイクを疾走させる。

スピードの恍惚。

デルピーのかっこよさ。

アフロディーテ二人が共演している。

それだけでも十分見る価値があるが、

ラヴァン演じるアレックスの異形と、

その異質性が、さらに際立たせる耽美的世界。

映像美。

生年身長体重がカラックスと同じだというドニラバン。

見ているものをぞくっとさせる視線の険しさ。

表情の不気味。

存在自体がまさにmauvais。



この映画の良さはカラックスの美意識の高さにある。

ビノシェとデルピーのキャスティングだけでも審美眼が確かなものであることはわかるが、
彼のメンクイ指数の数値の大きさの証明だけではない、


映像とセリフから伝わる

シーン一つ一つへのこだわりが半端でない。

それが、この映画の今見ても古さを感じることがない

色あせない魅力となっている。


パラシュートを上から撮った幾何学模様。

男二人の喧嘩では硝子板に押しつぶされた顔を映す。

マリアを頭を下にして独白させるシーン。

よちよち歩きの赤ん坊とふらついて歩くアレックス。

金魚の水槽に飛び込む黄色い灰皿

STBOに感染した密告者の右目だけを映してから顔全体を映す。

トランプのカードに至るまで

赤 黒 青 白 

の色彩感覚。

涙を隠す色紙の色使い破れ方。


ラジオの周波数の合わせ方。


デヴィッド・ボウイのモダンラブとともに

腹を叩きながら疾走するアレックス。


剃刀の不穏からの口紅のばってん。

森の中、裸体で憩うリーズとアレックス。

アンナの首筋のキスマークと濡れた髪と体。

というセックスの後の描き方は

ともに美しくやらしさがない。

冒頭の白鳥のようにアンナを飛行場で羽ばたかせるラスト。

性愛に関するセリフの多彩なことはフランス人的といえるのだろうか。

”俺の指紋はやがて君の体から消え
君の初々しさは永遠だ。”


”娘が脚を広げると秘密の蝶々が飛び立つ。”


”もしきみとすれちがってしまったら、
世界全体とすれ違うことになってしまう。
こんな人生ってあるか。
君を愛している。”

ポンヌフの恋人でも唸るような見事なセリフがある。



本棚に囲まれたアレックスの住まいは監督自身の住まいの投影なのだろう。




個人的には言葉で楽しませる映画というのが好きだ。

セリフの言葉の豊穣が個人的なつぼをグイグイとおしてくる。

印象的なセリフの数々は

読書家であることは間違いないカラックスの

真骨頂ともいえる。



ワクチン奪取計画を完璧な計画の一言で済ますところ。

アンナがパラシュートの練習をすることの無意味。

人質が自分自身でバイクに乗った少女一人がポリスをまくという説得力のなさ。

なぜ撃たれたあと我慢しているのかという疑問。

そんなあらさがしはどうでもよい。

許せる。

登場人物、セリフ、色使い、飽きさせないシーン。

結末は哀しい。

だがこの映画が描く世界観は儚くとも美しさに満ちている。


汚れた血という邦題はふさわしくない。

悪い血の方がまだふさわしい。

原題のままでも良かったのではと思う。

この作品の後ポンヌフを見るとビノシェの役の振幅の落差にビビる。

この映画も好きだがポンヌフはさらに好きな映画。







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